はじめに~“気づかないうちに加害者”になっていませんか?
2023年に刑法が改正され、新たに「不同意わいせつ罪」という罪が創設されたことをご存じでしょうか。
「強制わいせつとは何が違うの?」「同意がない行為はどこまで犯罪になるの?」「逮捕される可能性はあるの?」といった疑問や不安を抱えている方も多いのではないかと思います。
このコラムでは、不同意わいせつ罪の概要や、成立要件、罰則、逮捕の流れとそのリスク、そして逮捕を回避するために知っておくべきポイントを、法律の専門用語に不慣れな方にもわかりやすく解説します。
違法な行為をしてしまったかもしれない、あるいはすでに捜査の対象になってしまっているという方は、ぜひ本記事を最後までご覧いただき、今後の対応にお役立てください。
【不同意わいせつ罪とは?どのような場合に犯罪が成立するのか】
刑法176条には以下の様に記載されています。
(不同意わいせつ)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律によって、強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」に改正されました。同法は令和5年(2023年)6月16日に発布され、令和5年7月13日から施行されています。なお、この改正に伴い、従来の強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が統合されたため、準強制わいせつ罪を定めていた刑法178条は削除されました。
わいせつな行為とは?
そもそもわいせつな行為とはどのような行為を指すのでしょうか?
判例によれば、わいせつな行為とは、「性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」をいうとされています(最大判昭和32年3月13日)。
すなわち、一般的の感覚からして「卑猥」とか「恥ずかしい」と感じる行為のことです。
これによると、陰部や胸を触ったりといった行為の他にも、いきなり抱きついたり、キスをしたりといった行為もわいせつな行為に含まれます。
(1)不同意わいせつ罪の構成要件
不同意わいせつ罪は、以下に記載されている8つの事由によって、被害者が、わいせつな行為に「同意しない意思を形成し、表明し、全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」場合に成立するとされます。
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- 暴行もしくは脅迫を用いる、または被害者がそれらを受けたこと
⇒これまでと同様の要件です
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- 心身の障害を生じさせる、または被害者にそれがあること
⇒相手が身体障害を抱えていたり、精神障害を抱えていたり、一時的に体調を崩していたりなどの事情で抵抗できない状態にあることを利用
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- アルコールもしくは薬物を摂取させる、または被害者にそれらの影響があること
⇒相手が大量に酒を飲んでいたり、睡眠薬を服用していたりして、それらの影響で抵抗できない状態になっていること
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- 睡眠やその他意識が不明瞭な状態にさせる、または被害者がその状態にあること
⇒被害者が睡眠中である場合など意識が不明瞭な状態を利用すること
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- 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがない
⇒突然体を触ったりするなど、考えたり、拒否したりする間がない不意打ち状態
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- 予想と異なる事態に直面させて、恐怖または驚愕(きょうがく)させる、または被害者がその状態に直面していること
⇒予想外の出来事で恐怖や驚きを感じ、体がフリーズしてしまった状態
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- 虐待に起因する心理的反応を生じさせる、または被害者がその状態にあること
⇒被害者が過去に性的虐待を受けたことがある場合、抵抗できない心理状態になることがありますので、そのような無抵抗状態に乗じること
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- 経済的または社会的の地位に基づく影響力による不利益を憂慮させる、または被害者が憂慮していること
⇒例えば、上司と部下のように、被害者側の社会的地位に悪影響を及ぼしうる立場を利用すること
従来の強制わいせつ罪は、明文上「暴行・脅迫」が要件とされていましたが、不同意わいせつ罪においては、暴行脅迫を用いていなくても、同意しない意思を形成したり、表明したり、全うできない状態、シンプルにいうと相手がわいせつ行為に同意していない場合に、処罰の対象となります。
■ 具体的な事例
- 飲み会の帰りに、好意を持っている女性の肩を突然抱き寄せた
- 勤務先の後輩に「冗談だよ」と言いながら、体を触った
- 無理やりではないが、相手の意思確認をせずにキスをした
これらの行為が、相手にとって望まないものであれば、不同意わいせつに該当する可能性があります。特に上下関係がある職場や学校などでは、「嫌と言えない」状況が考慮され、同意があったとは認められない場合もあります。
(2)相手の誤信を利用したわいせつ行為
不同意わいせつ罪は、相手の誤信を利用してわいせつな行為をした場合にも成立します。すなわち、被害者に対して、その行為がわいせつではないと勘違いをさせたり、わいせつではあるけど、相手が加害者ではなく恋人である等といったように、人違いをさせてわいせつな行為をする場合にも処罰されます。
(3)性交同意年齢の引き上げ
法改正により、性交同意年齢がこれまでの13歳から16歳に引き上げられました。
性犯罪は、自由な意思決定が困難な状態で性的行為が行われた場合を処罰しています。
そうであるとすると、自由な意思決定の前提となる能力が十分に備わっていない人に対しては、性的行為をしただけで、その人の性的自由・性的自己決定権は侵害されることになると考えられます。
そのような能力の内容として、(1)「行為の性的意味を認識する能力」のみならず、(2)「行為の相手との関係で、その行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手に対処する能力」も必要であると考えられます。
これまで、13歳未満の人は、(1)の能力が備わっていないと考えられることから、いわゆる性交同意年齢については、「13歳未満」とされてきました。
しかし、性的行為について有効に自由な意思決定をするためには、(1)の能力だけでなく、(2)も必要であると考えられます。
そして、13歳以上16歳未満(中学生くらいの年齢層)の人は、(1)の能力が一律にないわけではないものの、(2)の能力が十分に備わっているとはいえず、相手との関係次第では、この能力に欠けると考えられます。
このような考え方を前提として、性交同意年齢が16歳に引き上げられました。
わいせつな行為の相手方が13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長である場合に限り、罪が成立します。(2)の能力については、相手方と対等な関係にある場合には一定程度備わっていると考えられる為です。
【不同意わいせつ罪の罰則や時効】
■ 罰則は?(刑法第176条)
不同意わいせつ罪の法定刑は、「6か月以上10年以下の拘禁刑」です。
罰金刑は規定されていないため、有罪判決が下された場合は拘禁刑に処されることになります。
■ 時効は?
不同意わいせつ罪の公訴時効(検察が起訴できる期間)は、原則12年(被害者が18歳未満の場合は、これに、被害者が18歳に達する日までに相当する期間を加算した期間)です。したがって、過去の行為でも、時効が完成していない限りは、刑事責任を問われる可能性があります。
法改正で、公訴時効期間が5年間延長されました。
性犯罪は、一般的に、その性質上、恥ずかしいことだという感情や自分が悪いという感情により被害申告が難しいこと被害者の周りの人たちも被害に気付きにくいことから、他の犯罪と比べて、被害が表に出にくいという特性があります。
そのため、刑事訴追が事実上可能になる前に公訴時効が完成してしまい、犯人の処罰が不可能になるという不当な事態が問題となっていました。
さらに、心身ともに未熟な子どもや若年者は、特に被害を申告することが難しいと考えられるため、性犯罪の被害者が18歳未満である場合には、犯罪が終わったときから被害者が18歳になる日までの期間を加えることにより、公訴時効期間を更に延長することとされました。
【不同意わいせつで逮捕された場合の流れ】
■ ① 逮捕(緊急逮捕・通常逮捕)
被害者の申告や警察の捜査によって、加害者と疑われた場合、突然逮捕されることがあります。特に、証拠隠滅や逃亡の可能性があると判断された場合、早朝や深夜に突然、警察官が自宅に来るということも珍しくありません。
■ ② 勾留
逮捕されたあと、検察官が勾留請求を行い、裁判所が認めれば最大20日間身柄を拘束されます。この間、会社や学校への影響が非常に大きく、社会的信用を失ってしまうことも少なくありません。
■ ③ 起訴または不起訴
勾留中に、検察官が起訴(裁判にかける)するかどうかを判断します。弁護士が早期に介入し、示談などが成立すれば不起訴になる可能性もあります。
【不同意わいせつで逮捕された際のリスク】
■ 社会的信用の喪失
逮捕の事実は、勤務先や家族にも知られることが多く、解雇、退学、家庭崩壊といった重大な影響を及ぼすことがあります。
■ 裁判となれば前科がつく可能性
不起訴で終わらなければ、裁判で有罪となり、「前科」がつきます。前科があると、今後の就職や資格取得などにも影響します。
■ 報道による二次被害
特に重大な事件では、実名報道されるおそれもあります。ネット上で情報が拡散されれば、回復できないほどのレピュテーショナルダメージ(評判へのダメージ)を受ける可能性も否定できません。
【不同意わいせつで逮捕されないためのポイント】
■ ① 相手の同意を明確に確認する
「嫌がっていなかったから大丈夫」は通用しません。相手が明確に“同意”していたかを確認することが何より重要です。
■ ② アルコールや上下関係に注意
お酒の席でのボディタッチや、職場・学校などの上下関係の中での行動は、相手が“嫌と言えない”状況にある可能性が高く、不同意と評価されやすくなります。
■ ③ 冗談でも触れない
「冗談だった」「軽いノリだった」という言い訳は通用しません。たとえ本人にそのつもりがなくても、相手が不快に感じた時点で犯罪とされる可能性があります。
■ ④ 通報されたらすぐに弁護士に相談を
事情聴取や逮捕の前段階で、警察が事情確認のために連絡してくることがあります。その時点で、すぐに弁護士に相談して対処法を考えることが、逮捕を回避する上で非常に重要です。
【不同意わいせつでお悩みの方は弁護士法人晴星法律事務所へご相談ください】
不同意わいせつは、わかりづらく、そして極めて深刻な法的リスクを伴う犯罪です。たとえ「無理やりではなかった」「悪気はなかった」と思っていても、相手の受け取り方次第で、重大な犯罪として扱われてしまいます。
また、すでに被害届が出されていたり、警察から事情を聞かれている場合には、一刻も早い弁護士への相談が必要です。
実際に不同意わいせつ罪にあたる行為をしたと認めているのであれば、刑罰を少しでも軽くしたり、不起訴処分としてもらうためには、被害者との示談を進める必要があります。
しかし、性犯罪の被害者は、加害者とは直接会いたくない、話たくないという方が多く、交渉の場にすらつけないことが多いでしょう。
また、そもそも被害者の連絡先を知らない場合、捜査機関が、加害者に連絡先を教えてくれることはありません。そのような場合も、弁護士が示談を目的として被害者の連絡先を知りたがっている場合であれば、捜査機関から被害者へ確認のうえ、弁護士に対してのみであればと条件付きで連絡先を教えてくれることがあります。
また、加害者からの直接の連絡は拒否する被害者であっても、窓口が弁護士であれば話を聞いてくれる場合が多々あります。このように、弁護士を通じて、謝罪と弁済の意を伝えることで、示談が成立する可能性が高まります。
これとは違って、実際には不同意わいせつの行為や故意などはなく、言いがかりを付けられている様な状態でも、取り調べに向けた対策のため、弁護士のサポートは必須となります。
私たち弁護士法人晴星法律事務所では、不同意わいせつに関するご相談を数多くお受けしており、逮捕回避・早期の釈放・不起訴処分の獲得など、豊富な経験に基づいた対応を行っております。
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