1. はじめに
逮捕された場合、「すぐに釈放してほしい」「保釈を申請したい」と考えるのは当然のことです。しかし、刑事事件において保釈や釈放が認められるためには、一定の条件を満たす必要があります。本記事では、保釈や釈放の仕組み、手続きの流れ、弁護士に依頼するメリットについて詳しく解説します。
2.保釈、釈放の意味
(1)保釈
保釈とは、保釈保証金を納付することを条件に勾留の執行を停止し、身体拘束を解く制度を言います。
保釈には、除外事由(刑訴法89条各号)がなければ原則として認められる権利保釈、権利保釈が認められない場合でも裁判所の職権で認める裁量保釈、勾留による拘禁が不当に長くなった場合に認められる義務的保釈の三種類があります。
(2)釈放
釈放とは、身体拘束から身柄を解放してもらうこと全般をさす言葉です。
逮捕から勾留までの間でも釈放されることはありますが、保釈は勾留段階の制度なので逮捕段階で保釈されることはありません。
また、釈放は、警察官や検察官により判断されるのに対し、保釈は裁判官による判断を要するという違いがあります。
3.保釈、釈放のタイミング
(1)逮捕後から勾留前まで
逮捕後から勾留前までであれば、①微罪処分による釈放、②検察官による勾留請求が行われないことによる釈放、③勾留請求却下による釈放のいずれかが考えられます。
①微罪による釈放
犯罪捜査規範198条には「捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。」と規定されています。
したがって、「犯罪事実が極めて軽微」であれば、警察官限りで微罪処分として、被疑者に対し厳重な訓戒や、雇用主や親権者に対し、将来の監督に対する必要な注意を行ったうえで、身体拘束を解かれることになります。
②検察官による勾留請求が行われないことによる釈放
被疑者として逮捕された場合、48時間以内に検察官に送致され、検察官は24時間以内に被疑者を引き続き勾留して身体拘束を継続するかどうかを判断します。
この際の勾留の要件としては、勾留の理由(住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのいずれかがあること)と勾留の必要性(勾留による被疑者への不利益を超える利益があること)が求められます。
そのため、住居がある、証拠の確保が終了しており捜査の必要性がない、身元引受人がいたり、社会的な地位があるなど逃亡の可能性が低い、このまま勾留されると大学を受験できないなどの理由がある場合には、勾留の要件を満たさないと検察官限りで判断して、勾留請求を行わず、そのまま釈放されるという可能性も考えられます。
このような判断を検察官に行わせるために、弁護人は意見書を提出して検察官による勾留請求を阻止することもあります。
③勾留請求却下による釈放
上記②のとおり、勾留をするためには、勾留の理由と、勾留の必要性が認められなければなりません。
このため、検察官において、裁判所に対し勾留請求を行ったとしても、勾留の理由や勾留の必要性がないと裁判官が判断して、勾留請求を却下することがあります。
(2)勾留決定から起訴前まで
勾留決定後から起訴前までであれば、①準抗告による釈放、②勾留取消請求による釈放、③勾留の執行停止による釈放、④不起訴処分・略式起訴による釈放が考えられます。
①準抗告による釈放
裁判所が勾留を認めた場合でも、準抗告という不服申し立てを行うことにより、勾留決定を覆せる可能性があります。
ただし、準抗告が認められるためには、勾留の理由や勾留の必要性がないことを資料を用いて裁判所に対して説明しなければなりません。
このため、逮捕直後より身元引受人となる人を探しておいたり、裁判所に対し呼出しに必ず出頭する旨の誓約書を作成するなどの準備が重要となります。
②勾留請求取消による釈放
勾留中に、勾留の理由や勾留の必要性がなくなったと判断されれば、勾留取消請求を行うことで釈放される可能性があります。
勾留取消請求も、準抗告と同様、勾留の理由や必要性の喪失を、資料を用いて説明する必要があります。
③勾留執行停止による釈放
裁判官が「適当と認めるとき」(刑訴法207条1項本文、95条)には、被疑者の勾留の執行を停止することができ、これを申請することによって、被疑者の釈放を図ります。
「適当と認めるとき」の例としては、病気療養のための入院、両親や配偶者の危篤・死亡、学校の試験などが考えられます。
なお、勾留の執行停止は、裁判官の職権による判断によって行われるものであるため、弁護人から勾留執行停止申請を行っても、裁判官の職権発動を促すことにしかなりません。このため職権発動が行われなくとも、これに不服申立をすることもできません。
④不起訴処分・略式起訴による釈放
勾留期間が経過すると、検察官は被疑者を起訴するか否かを決定します。
犯罪の立証ができない場合は不起訴処分になります。また、痴漢や盗撮などの事件の場合は、罪を認めて反省し、被害者との示談を成立させれば、不起訴処分になる可能性が高いです。
このため、勾留中でも、黙秘を貫く、被害者との示談交渉を進めて宥恕文言を獲得する、更生環境を整えるなどの準備を進めておくことが重要なのです。
また、簡易裁判所の管轄に属する(事案が明白で簡易な事件)100万円以下の罰金又は科料に相当する事件について,被疑者に異議のない場合には、検察官の判断において、略式起訴とされることがあり、この場合には、その場で釈放され、後日罰金の納付をして終了となります。
(3)起訴後
起訴後であれば、「保釈」を申請することで、裁判が続く間も被告人が釈放される可能性があります。
保釈には①権利保釈(刑訴法89条)、②裁量保釈(刑訴法90条)、③義務的保釈(刑訴法91条)の3種類が存在します。
①権利保釈
裁判所は、保釈の請求があった場合には、原則として保釈を許可しなければなりません。
ただし、権利保釈には、以下のように幅広い除外事由があります(刑訴法89条1号から6号)。
被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
被告人の氏名又は住居が分からないとき
②裁量保釈
権利保釈が認められない場合でも、裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができます。
③義務的保釈
勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判所は、請求又は職権で、保釈を許さなければなりません。
ただし、実務上、義務的保釈はほとんど用いられていません。
(4)保釈保証金
保釈を許す場合には、保釈保証金を定めなければならないとされています(刑訴法93条1項)。
保釈保証金とは、被告人が逃亡せずに裁判に出席することを保証するために裁判所に納める金額です。保釈保証金の相場は数十万円から数百万円程度ですが、事件の重大性や被告人の経済状況によって異なります。保釈保証金は裁判終了後に返還されますが、逃亡した場合や裁判所の条件に違反した場合は没収されることがあります。
保釈保証金の納付ないし、保釈保証書の差出しが行われない限り、保釈は執行されません。
このため、保釈に際しては、保釈保証金の確保が重要になってきます。
自身や親族では保釈保証金の工面が困難な場合でも、保釈保証協会等を利用することで保釈保証金の準備が出来ます。
なお、保釈に際しては、身元引受人の存在を求められることが通例となっていますので、保釈請求に先立ち、身元引受人の確保をしておくことも重要です。一般的には同居の親族などが身元引受人となることが多いですが、同居の知人や住み込みで勤務している勤務先の雇用主が身元引受人となることもあります。
この際には、身元引受書や、身元引受人を引き受けた経緯や監督意思等を記載した陳述書を作成し裁判所に提出することもあります。
5. 弁護士に依頼するメリット
(1)早期釈放の可能性が高まる
弁護士が速やかに適切な手続きを行うことで、早期に釈放される可能性が高まります。勾留阻止や保釈請求の際には、専門的な法的知識が必要となるため、弁護士のサポートが不可欠です。
(2)示談交渉のサポート
被害者がいる事件では、示談を成立させることで勾留の必要性がなくなり、釈放されるケースもあります。弁護士が被害者と交渉を行い、示談を成立させることで、事件の早期解決が可能になります。
(3) 適切な保釈金額の交渉が可能
保釈金の額は裁判所の判断によりますが、弁護士が交渉を行うことで、より適切な金額での保釈が認められる可能性があります。
(4)裁判までの準備をスムーズに進められる
保釈が認められれば、裁判に向けた準備を自由な環境で進めることができます。弁護士と相談しながら証拠の整理や弁護方針を決めることで、有利な裁判展開につながります。
6. まとめ
逮捕されると、すぐに釈放されるわけではなく、一定の手続きを経る必要があります。特に起訴後の保釈は、適切な対応を取ることで認められる可能性が高くなります。
保釈や釈放を求める場合、弁護士のサポートを受けることで、迅速かつ適切な対応が可能になります。もしご家族やご友人が逮捕された場合、すぐに弁護士にご相談ください。弁護士があなたの権利を守り、最良の解決策を提案いたします。