ひき逃げ・当て逃げに対しては、交通事故を起こしてそのまま逃走するというイメージを持たれている方もおられると思います。一方、どのような行為がひき逃げや当て逃げとして犯罪になるのか、ひき逃げや当て逃げをするとどのような刑罰が科されるのか、詳しくは分からないという方も多いと思います。
そこで、今回は、ひき逃げ・当て逃げについて解説します。
1.ひき逃げとは
道路交通法72条1項には、交通事故があったときは、車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならず、当該交通事故について警察官に報告しなければならないという、救護義務、危険防止措置義務、報告義務に関する定めが置かれています。
ひき逃げは、交通事故のうち人身事故を起こしてしまった場合に、これらの義務を果たさずに逃走することをいいます。
ひき逃げの罰則としては、まず、上記救護義務に違反したことによる罰則があります。法定刑は10年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされています。
また、ひき逃げによって被害者を死傷させたときには、自動車運転死傷処罰法違反の罪にも該当することがあります。具体的には、過失運転致死傷罪、危険運転致死傷罪、準危険運転致死傷罪といったものがあります。
過失運転致死傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠り、それによって人を死傷させた場合に成立します。法定刑は7年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。
危険運転致死傷罪は、飲酒運転や高速度での運転などの危険運転を行い、それによって人を死傷させたときに成立します。法定刑は、人を負傷させたとき(致傷)は15年以下の懲役、人を死亡させたとき(致死)は1年以上の有期懲役です。
危険運転の類型の一例は次のとおりです
・アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
・進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
・進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
・人や車の進行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
・赤信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
など
準危険運転致死傷罪は、アルコールや薬物の影響で、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、そのアルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させた場合に成立します。法定刑は、人を負傷させたとき(致傷)は12年以下の懲役、人を死亡させたとき(致死)は15年以下の懲役です。
準危険運転致死傷罪は、危険運転致死傷罪と異なり、正常な運転に支障が生じる「おそれ」がある状態で自動車を運転していれば足りることになります。
2.当て逃げとは
当て逃げは、交通事故のうち物損事故を起こしてしまった場合に、道路交通法72条1項の危険防止措置義務や報告義務を果たさずに逃走することをいいます。
法定刑は、危険防止措置義務違反については1年以下の懲役又は10万円以下の罰金、報告義務違反については3か月以下の懲役又は5万円以下の罰金です。
このように、ひき逃げは、人身事故を起こしたときのことであるのに対し、当て逃げは物損事故を起こしたときのことという点で異なります。
3.ひき逃げ・当て逃げを起こしてしまった場合の刑事事件手続きの流れ
逮捕
逮捕には、逮捕状の発付を受けて行われる通常逮捕、現行犯人を無令状で逮捕する現行犯逮捕、重大犯罪事件で高度の嫌疑と緊急性が認められるときに行われる緊急逮捕があります。
通常逮捕には、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由が必要とされていますが、逮捕の理由がある場合でも、明らかに逮捕の必要がないと認められるときには、逮捕状の請求は認められません。
そして、逮捕の必要がないとは、被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重及び態様などの諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がないような場合をいいます。
ひき逃げや当て逃げを起こしてしまった場合についても、逮捕状の発付を受けて後日逮捕されるということもあります。
特に、当て逃げの場合には、人身事故ではないことから、逮捕までされることはないと考えがちです。しかし、事故を起こしてそのまま逃走しているため、逃亡する虞があることの一つの事情が存在するともいえます。当て逃げの場合でも逮捕されないとはいえません。
なお、在宅での捜査になり、逮捕や勾留をされないまま、起訴(公判請求)になることもあります。この場合は、身柄を拘束されることなく、刑事裁判を受けることになります。
勾留
逮捕されると、最長で72時間身柄を拘束されることになります。
この間、弁護士以外の者と面会をすることはできません。また、逮捕に続いて勾留されることになると、最長でさらに20日間身柄を拘束されることになります。
また、その後起訴(公判請求)されると、身柄の拘束はさらに継続することになります。
起訴
検察官が起訴(公判請求)をすると、公開の法廷で刑事裁判手続きが始まります。刑事裁判では、検察官と弁護人が主張立証活動を行い、最終的に判決の宣告が行われます。
被告人がひき逃げや当て逃げを行ったことを認めている場合は、示談が成立したことなどの情状弁護を中心に行い、執行猶予付判決の獲得を目指します。
これに対し、否認している場合は、被告人がひき逃げや当て逃げを行っていないことについて主張立証し、無罪判決の獲得を目指すことになります。
また、公開の法廷で刑事裁判手続きが行われない略式起訴という手続きもあります。略式起訴では、簡易裁判所が管轄する事件について、被疑者にも異議がない場合に、100万円以下の罰金又は科料を課すことができ、書面審理による手続きが行われます。
なお、略式起訴の場合でも、起訴(公判請求)されたときと同様に前科がつきます。
4.不起訴処分
嫌疑がない場合や嫌疑が不十分の場合、犯罪の嫌疑が認められる場合でも被疑者の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情況により訴追を必要としないときなどには、不起訴処分になることがあります。
不起訴処分になると、起訴(公判請求)や略式起訴と異なり、前科も付きません。
5.まずはご相談ください
ひき逃げや当て逃げを行ってしまった場合でも、被害者と示談を成立させたり、今後犯罪行為を繰り返さない姿勢を示したりすることにより、不起訴処分や執行猶予付き判決になることもあります。
また、逮捕され、長期間身柄が拘束されてしまうと、仕事をすることができない、勤務先から解雇される可能性が高まるなど、社会生活に大きな影響を与えることになります。
弁護士法人晴星法律事務所では、被害者との示談交渉や準抗告・保釈請求といった身柄解放を目指した活動、公判廷での主張立証活動をはじめとする刑事弁護活動を行っております。
刑事弁護に注力した弁護士が全力で対応させていただきますので、ひき逃げや当て逃げをはじめ、刑事事件手続きでお困りの方は、ぜひ、弁護士法人晴星法律事務所までご相談いただければと思います。