教師は、子どもたちの成長に直接関わる職業であり、社会から極めて高い倫理性と責任を求められています。
そのため、教師が刑事事件を起こして逮捕されるという事態は、本人の人生だけでなく、勤務先の学校、教育委員会、生徒、保護者にまで深刻な影響を及ぼします。
実際に当事務所にも、
「逮捕されたら即クビになるのか」
「教員免許はもう二度と使えなくなるのか」
「不起訴になれば教師を続けられるのか」
といった切実な相談が数多く寄せられています。
この記事では、刑事事件に注力する弁護士の立場から、教師が逮捕された場合に何が起こるのか、教員免許や仕事にどのような影響が生じるのか、そして免許と職を守るために何をすべきかを、実務に基づいて詳しく解説します。
教師が逮捕された場合の流れ
逮捕から刑事手続までの基本的な流れ
教師であっても、刑事手続そのものは一般の事件と同じです。
逮捕された場合、通常は次のような流れをたどります。
1.警察による逮捕・警察署での取調べ(最大48時間)
2.検察官への送致(送致後24時間以内に勾留請求するか判断)
3.勾留(最大20日間)
4.起訴または不起訴の判断
ここで重要なのは、逮捕された=有罪が確定したというわけではない点です。
逮捕はあくまで捜査上の措置であり、その後に不起訴となるケースも少なくありません。
しかし、教師という立場の場合、刑事手続とは別に、逮捕されたという事実そのものが重大な意味を持ちます。
学校・教育委員会への影響
教師が逮捕された場合、多くのケースで、
- 学校長
- 教育委員会
- 学校法人(私立学校の場合)
に事実が伝わります。
特に公立学校教員の場合、逮捕の報が入ると、教育委員会は速やかに事実関係の把握を行い、懲戒処分を含む内部手続を開始します。
この段階では、刑事事件がどうなるか確定していなくても、教師としての職務から一時的に外されることも珍しくありません。
「逮捕された」という情報が入った時点で何が起きるか
(1)教育委員会は事実確認に着手する
公立学校教員の場合、
- 警察
- 学校(校長)
- 報道
などを通じて逮捕の事実が教育委員会に伝わると、教育委員会はまず、 - どのような罪名か
- 職務関連性があるか
- 被害者が児童・生徒か
- 事実関係はどこまで判明しているか
といった点について、**事実確認(内部調査)**を開始します。
この段階では、 有罪・無罪は全く確定していません。
(2)同時に「懲戒処分の対象になり得るか」を検討し始める
教育委員会は、刑事責任とは別に、
- 地方公務員法(服務規律違反)
- 教育公務員特例法(教育職員としての特別責任)
- 各教育委員会が定める懲戒処分指針
に基づいて、「公務員・教育職員としての義務違反があったか」「懲戒処分を検討すべき事案かどうか」を判断します。
つまり、逮捕された=自動的に処分ではありませんが、「懲戒処分を検討するフェーズ」に入ること自体は、ほぼ確実です。
懲戒処分の根拠
根拠条文:地方公務員法
地方公務員法29条【懲戒処分の根拠条文】
まず、懲戒処分そのものの根拠は、地方公務員法29条です。
地方公務員法29条1項
職員が次の各号のいずれかに該当する場合においては、任命権者は、これに対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
そして、懲戒の理由として、同条は次を定めています。
一 この法律若しくは第57条に規定する特例を定めた法律またはこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
とされており,教師が逮捕された場合、教育委員会が問題にするのは、主に 第3号「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」です。
☑「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」とは?
「全体の奉仕者」とは、地方公務員法30条に由来する概念です。
地方公務員法30条
すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ,職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない。
ここから導かれるのが、「高い倫理性・社会的信用を保持すべき義務」です。
そのため、逮捕された行為が職務外であっても社会的信用を著しく損なうものであれば「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に該当し得ると解釈されています。
信用失墜行為の禁止(地方公務員法33条)
教師の刑事事件で特に重要なのが、地方公務員法33条です。
地方公務員法33条
職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
これがいわゆる「信用失墜行為の禁止」です。
教師が逮捕されると、
- 報道される
- 保護者・地域に知られる
- 学校運営に支障が出る
といった事態が生じやすく、この33条違反が認定されやすい状況になっています。
(2)職務専念義務(地方公務員法35条)
さらに、次の条文も検討対象になります。
地方公務員法35条
職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。
勾留・取調べ・事件対応によって、
- 長期間勤務できない
- 授業や学級運営に支障が出る
場合、 職務専念義務違反が問題視されることもあります。
- 教育公務員特例法による「教師としての特別責任」
教師は、一般の地方公務員よりも、さらに高い倫理性を求められています。
教育公務員特例法の位置づけ
教育公務員特例法は、
地方公務員法の「特別法」として、
- 教育職員の職責
- 服務規律
- 懲戒の在り方
を補強しています。
特に実務上重視されるのは、教育公務員特例法1条(趣旨)
教育公務員の職務と責任の特殊性に鑑み、その身分取扱い等について特例を定めるという点です。
つまり、教師は「一般公務員以上に社会的模範性が要求される」という前提で、懲戒判断がなされます。
刑事処分と無関係に懲戒が検討される法的理由
ここが非常に重要なポイントです。
刑事処分と懲戒処分は「目的が違う」
- 刑事処分
→ 犯罪に対する国家の制裁 - 懲戒処分
→ 組織秩序・職務信用の維持
このため、判例上も一貫して、不起訴・無罪であっても、懲戒処分が許される場合がある
とされています。
これは、 地方公務員法29条の「非行」判断は、刑事責任と別次元だからです。
「逮捕=アウト」ではなく、
「条文に照らしてどう評価されるか」
- 社会的信用を著しく失墜させたか
- 教師としての倫理に反する行為か
- 学校運営に重大な支障を与えたか
といった観点から検討されます。
教育委員会が重視するポイント
教育委員会が懲戒処分を検討する際、特に重視するのは次の点です。
① 犯罪内容・性質
- 児童・生徒に関係するか
- 性犯罪か
- 職務上の立場を利用したか
→ ここが最も重く見られます。
② 社会的影響・学校への影響
- 報道されたか
- 保護者や地域からの反応
- 学校運営への支障
③ 教師本人の態度
- 反省の有無
- 説明責任を果たしているか
- 再発防止策が具体的か
④ 刑事手続の状況
- 不起訴か
- 罰金か
- 執行猶予か
※刑事処分が重いほど、懲戒処分も重くなる傾向はあります。
ただし、以下の点には注意が必要です。
☑不起訴でも検討はされる
非常に重要な点ですが、不起訴処分になった場合でも、教育委員会は懲戒処分を検討します。
理由は、懲戒処分が
- 刑罰(有罪・無罪)ではなく
- 教師としての服務義務・信用保持義務違反
を基準に判断されるからです。
したがって、不起訴でも戒告・減給・停職などの処分がなされることはありえます。
ただし、上でも述べましたが,不起訴の方が,懲戒処分の判断においても有利に働くという事実もあります。
☑無罪判決でも検討される余地はある
無罪判決の場合でも、
- 行為自体が服務規律違反と評価される
- 学校への影響が大きい
と判断されれば、軽微な懲戒処分(戒告など)が検討される余地はあります。
もっとも、実務上は、無罪の場合に重い懲戒処分が科されることは限定的です。
私立学校教員の場合(補足)
私立学校教員は地方公務員ではないため、
- 地方公務員法
- 教育公務員特例法
は直接適用されません。
しかし、
- 学校法人の就業規則
- 懲戒規程
- 労働契約法15条(懲戒権濫用法理)
に基づき、同様に刑事事件とは別の観点から懲戒処分の検討がなされることとなります。
実務感覚としては、公立教員と同等か、それ以上に厳しく判断されることもある点に注意が必要です。
実務上の重要ポイント
- 「刑事事件」と「懲戒」は同時並行で進む
多くの方が誤解していますが、刑事事件が終わってから懲戒処分が決まるとは限りません。
実務では、 刑事手続と並行して、懲戒処分の検討が進みます。
そのため、
- 取調べでの供述
- 警察・検察への対応
- 学校・教育委員会への説明内容
が、懲戒処分の重さにも影響します。
重要なのは、
- 教育委員会は
- 「条文に基づいて」
- 懲戒を検討している
という点です。
つまり、
- どの条文にどう当てはめられるか
- どの評価を弱められるか
を意識した対応ができるかどうかで、処分の重さは大きく変わります。
教師が逮捕されると教員免許を失うのか
逮捕=免許取消ではない
多くの方が最も恐れているのが、
「逮捕された瞬間に教員免許が失われるのではないか」という点です。
しかし結論から言えば、逮捕されたという事実だけで、教員免許が自動的に取消されることはありません。
教員免許の取消や失効は、刑事処分の内容や、その後の行政判断によって決まります。
教員免許が問題となる具体的な場面
教員免許に直接影響が及ぶのは、主に次のようなケースです。
当然失効(教育職員免許法第10条)
- 拘禁刑以上の刑が確定した場合
- 公立学校教員が懲戒免職処分を受けた場合等
取り上げ(教育職員免許法第11条)
- 私立学校の教員が懲戒免職の事由に相当する事由により解雇された場合
- 分限免職を受けた場合で
- 教育職員樽にふさわしくない非行があって情状が重い場合等
欠格(学校教育法第9条)
- 拘禁刑(執行猶予中のものも含む)以上の刑に処せられたもの等
特に、児童・生徒に関係する犯罪や性犯罪の場合には、刑事処分が軽くても、免許取消・失効が検討される可能性が高くなります。
また,拘禁刑以上の刑が確定した場合に当然に免許を失うこととなる一方で、不起訴処分となった場合、免許が当然に失われることはありません。
この「不起訴か否か」は、教師にとって極めて重要な分岐点です。
教師が逮捕され仕事を失わないために弁護士に依頼するメリット
初動対応がすべてを左右する
教師が逮捕された場合、最も重要なのは初動対応です。
- 取調べで何を話すか
- 被害者との示談をどう進めるか
- 反省状況の整理
- 再発防止策をどう示すか
- 検察官への意見書提出
これらの対応を通じて,まずは不起訴処分を目指していくことが,後の処分を見据えて出来る最大のポイントとなります。
それだけではありません。
教育委員会対応
教師の事件では、刑事事件としての弁護だけでは不十分です。
弁護士が関与することで、
- 刑事弁護と懲戒対応を「分けて」整理
- 教育委員会対応を見据えた弁護方針の構築
- 教育委員会に提出される説明内容の整理,不要・不利な発言を防止
- 反省文・報告書の作成方針
- 再発防止策の具体化
など、懲戒処分を見据えた戦略的対応が可能になります。
これは、「免許を失わない」「仕事を続ける」ために極めて重要です。
精神的負担を大きく軽減できる
逮捕という事態は、本人だけでなく家族にも大きな精神的負担を与えます。
弁護士が窓口になることで、
- 外部対応を一任できる
- 不安を法的に整理できる
- 冷静に将来を考える時間を確保できる
といった実務的・心理的メリットがあります。
弁護士法人晴星法律事務所へご相談ください
教師が逮捕されるという事態は、単なる刑事事件ではなく、人生・職業・将来設計すべてに関わる重大な問題です。
弁護士法人晴星法律事務所では、教員・公務員・専門職の事件対応実勢が豊富な,刑事事件専門チームによって,教育委員会対応を見据えた弁護戦略を立て,依頼者の免許と仕事を守るための弁護活動を行っています。
「もう教師を続けられないのではないか」
「誰にも相談できず、追い詰められている」
そのような状況こそ、できるだけ早くご相談ください。
早期に弁護士が関与することで、結果が大きく変わる可能性があります。

