刑事事件の流れ

1.逮捕

警察官による捜査の結果、被疑者であると判断された場合、警察は、必要に応じて被疑者を逮捕します。
逮捕には、以下の3つの種類が存在します

①現行犯逮捕

「現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者」(刑訴法212条1項)は、現行犯人として逮捕状なくして逮捕することが出来ます(213条)。
また、㋐犯人として追呼されているとき、㋑贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき、㋒身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき、㋓誰何されて逃走しようとするときのいずれかに該当する者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、現行犯人とみなされます。
「現に罪を行い」とは、実行行為を行いつつあることをいい、「現に罪を行い終った者」とは実行行為を行い終わった直後の者を言うので、犯罪の結果が発生している必要はありません。
このため、未遂犯でも現行犯逮捕の対象となります。

②通常逮捕

「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。」とされます(刑訴法199条1項)。
これを通常逮捕といい、逮捕の原則型に当たります。
逮捕状は、検察官または司法警察員(警部以上の者に限る)によって、裁判所に対して請求され、裁判所は、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と「逮捕の必要」があると認められれば、逮捕状を発付します。
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」とは、特定の被疑者が、特定の犯罪を犯したことについて、相当の嫌疑があることをいい、「逮捕の必要」とは、被疑者に逃亡のおそれがあるか、罪証隠滅のおそれがある場合に認められます(規143条の3)。
なお、一定の軽微犯罪(30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪)については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく刑訴法198条の規定による出頭の求めに応じない場合に限り、逮捕状による逮捕が行えます(刑訴法199条1項但書)。

③緊急逮捕

「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。」とされます。
これを緊急逮捕といい、現行犯逮捕と同様、逮捕状のないまま被疑者の逮捕が行えます。
ただし、緊急逮捕をした場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならず、逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければなりません。
ここでいう、「罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由」とは、何らかの証拠に基づいて、特定の犯罪の犯人であると、捜査機関が確信をもっている程度の状況が必要であるといわれます。
また、「急速を要し」とは、すぐに逮捕しなければ、被疑者が逃亡または罪証隠滅をする可能性が高く、逮捕状を請求している時間的余裕がないことをいいます。

2.逮捕後の手続き

(1)告知・弁解・防御の機会の提供

被疑者として逮捕された場合、警察は、直ちに、被疑事実の要旨と弁護人選任権があることを告げ、弁解の機会を与えることとなっています(犯罪捜査規範130条1項)。
この際には、弁解の内容を録取した弁解録取書が作成されます。

(2)送致・勾留請求

その後、警察は、被疑者の留置の要否を判断し、留置不要なら直ちに釈放します。
留置が必要と判断した場合には、「被疑者の身体拘束が開始された時」から48時間以内に、書類および証拠物とともに検察官への送致が行われます。
被疑者の送致を受けた検察官は、被疑者に対し、さらに弁解の機会を与えた上で、留置が必要か判断し、留置が必要な場合には、「被疑者を受け取った時」から24時間以内に、裁判官に被疑者の勾留を請求します(刑訴法205条1項)。
留置が不要な場合には、直ちに釈放し、被疑者を受理した段階で公訴提起可能と判断した場合には、勾留請求を行わずに公訴の提起が行われます。
なお、警察署から最寄りの検察庁に送致するという関係上、検察庁までの移動時間等のために、送致開始から検察官が被疑者を受け取るまでには一定の時間が必要となります。
しかし、「被疑者の身体拘束が開始された時」から勾留請求までの時間は72時間を超えることは許されません(刑訴法205条2項)。
このタイムラグは、検察官の手持ち時間の24時間を事実上減らすことになりますが、それによって被疑者に不利益とならないように配慮されているのです。

3.被疑者勾留

(1)要件

検察官からの勾留請求を受けた裁判官は、①勾留の理由と②勾留の必要性の有無を判断し、どちらも認められる場合に限って、勾留を決定します。

①勾留の理由

勾留の理由とは、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」で、刑訴法60条1項各号のいずれかの事情が認められることをいいます。
刑訴法60条1項各号の事情は以下のとおりです。
㋐被告人が定まった住居を有しないとき
㋑被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき
㋒被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき

②勾留の必要性

刑訴法87条1項は、「勾留の必要がなくなったときは、…勾留を取り消さなければならない」と規定していることから、勾留決定段階においても勾留の必要性が求められると考えられています。
勾留の必要性は、罪証隠滅や逃亡のおそれの程度と、勾留による被疑者の不利益等を考慮して判断されます。
例えば、最高裁判所決定平成26年11月17日は、罪証隠滅の現実的可能性が低いとして勾留の必要性を否定した原々審の判断を支持しています。

(2)勾留質問

勾留請求を受けた裁判官は、勾留の要件の有無の判断と並行して、被疑者に対する勾留質問を行います。
この勾留質問において、被疑者には、再度、告知・弁解・防御の機会が与えられることとなるのです。
この勾留質問は、非公開で裁判官が直接、被疑者と面談し、検察官・弁護人の立会も認められていません。

3.勾留開始後

被疑者勾留の期間は、勾留請求の日から原則10日です。
法律上は、期間計算において、初日・休日を不算入としていますが、実務では、被疑者の利益のため、初日・休日も参入する扱いとしています。
また、検察官は、「やむを得ない事由がある」ときは、裁判官に勾留期間の延長を請求することができます(刑訴法208条2項)。
勾留延長がされると、最大10日間、勾留期間が延長されます。
勾留期間終了すると、検察官は不起訴、略式起訴、起訴のいずれかの処分を下します。
したがって、逮捕から起訴・不起訴の決定まで、最大23日間、留置所にて身体拘束をされる可能性があります。

4.起訴・不起訴処分

捜査を遂げた検察官は、以下の流れで、被疑者の起訴・不起訴を決定します。

①訴訟条件の有無

まず、訴訟条件の有無を確認します。
訴訟条件を満たさない場合、検察官は不起訴処分とします。
訴訟条件を満たさない場合としては、㋐被疑者死亡、㋑親告罪における告訴の欠如・無効・取消し、㋒確定判決あり、㋓起訴済み、㋔時効完成などがあります。

②構成要件該当性

被疑事実が犯罪の構成要件に該当しないことが一見して明らかな場合、「罪とならず」という理由で、不起訴処分とします。
不敬罪で告訴されたというような場合が、これに当たります。

③嫌疑の有無

被疑事実が犯罪の構成要件に該当する場合、その被疑事実を被疑者が行ったという証拠があるかを確認します。
証拠がないか、証拠はあるが犯人であると立証するには不十分である場合には、「嫌疑なし」「嫌疑不十分」という理由で不起訴処分とします。

④起訴猶予の可能性

訴訟条件を満たし、犯罪の構成要件該当性も認められ、被疑者を犯人と立証するだけの証拠を揃えられているとしても、示談が成立している、既に懲戒処分を受けている等、敢えて被疑者に刑事罰を与えてまで更生を促す必要性がない(訴追の必要がない)と判断される場合には、「起訴猶予」という理由で、不起訴処分とすることがあります。

⑤起訴処分

訴訟条件を満たし、犯罪の構成要件該当性も認められ、被疑者を犯人と立証するだけの証拠を揃えられ、訴追の必要があると判断される場合には、検察官は、被疑者を起訴します。
ただし、起訴といっても、2種類あります。
・公判請求(正式裁判)
裁判官が審理し、刑罰を決める裁判が行われる。
・略式起訴(罰金刑のみ)
軽微な犯罪の場合、裁判なしで罰金を納めるだけで終了する。

5.公判

(1)書類の送達

検察官による公判請求が行われると、起訴状謄本が被告人に送達されます。
また、「弁護人選任に関する通知及び照会」と題する書面が送達されることによってて、①弁護人選任権があること、②貧困等の事情がある場合には、国選弁護人選任請求権があることが告知されます。
ただし、既に被告人に弁護人が選任されている場合(例えば、被疑者段階から弁護人が選任されており、引き続き弁護人として活動する場合など)、「弁護人選任に関する通知及び照会」と題する書面」による告知は行われません。

(2)第1回公判期日の指定

弁護人が選任されると、裁判長は第1回公判期日の指定を行います。
公判期日には、被告人は出頭しまければなりません。
実務上は、第1回公判期日は、起訴から1ヶ月後程度を指定することが多いです。
この期間に、検察官・弁護人の双方が公判に向けた準備を進めていくのです。

(3)被告人勾留

起訴された場合、被疑者段階で勾留されていときは、起訴と同時に、自動的に被疑者勾留が被告人勾留に切り替わります。
被告人勾留の期間は、公訴提起があった日から2ヶ月で、1ヶ月ごとに更新されます(刑訴法60条2項)。
ただし、被告人勾留の段階では、被疑者勾留時には認められた接見指定が認められていません。
また、被告人勾留の段階では、被疑者勾留では認められなかった保釈が認められます。

(4)第1審公判手続

第1審公判手続は、①冒頭手続、②証拠調べ、③被告人質問、④弁論の順で進んでいきます。

①冒頭手続

冒頭手続は、以下の順で質疑応答が行われます。

㋐人定質問
起訴状に記載された人物と、被告人とが同一人物であることを確認します。
氏名・生年月日・本籍・住所・職業を確認して、被告人の特定をしていきます。
㋑起訴状朗読
人定質問の後、検察官による起訴状の朗読が行われます。
㋒黙秘権告知
起訴状の朗読後、裁判長は、被告人に対し、黙秘権があることを告知します。
また、黙秘せず陳述することも出来るが、陳述すれば、被告人に不利益な証拠とも、利益な証拠ともなることも告知します。
㋓罪状認否
黙秘権告知後、裁判官は、被告人及び弁護人に対し、起訴状記載の罪状に対する意見を陳述する機会を与えます。
ここでは、起訴状記載の事実に争いがある場合には、その部分を明示して争う旨を伝え、そうでない場合は、公訴事実に争いはないことを伝えます。

②証拠調べ

証拠調べは、㋐冒頭陳述、㋑証拠調べ請求、㋒証拠決定・証拠意見、㋓証拠調べの実施、㋔弁護人立証という順で進みます。
㋐冒頭陳述
検察官が証拠により証明しようとする事実を陳述することを冒頭陳述といいます。
冒頭陳述の内容は、証拠とすることは出来ませんが、事件の全体像を明らかにするという目的があることから、犯行動機や犯行経緯などの犯情に関する内容や、前科・前歴など、起訴状に記載されていない内容でも陳述出来ることとなっています。
㋑証拠調べ請求
検察官は、冒頭陳述に引き続き証拠調べ請求を行います。
検察官は、事件の審理に必要であると認める全ての証拠の取調べを請求する義務を負っています(規193条1項)。
㋒証拠決定・証拠意見
裁判官は、証拠調べ請求に対し、証拠を採用するか、却下とするかの決定を行います。
その際には、相手方の意見(書証については同意か不同意、物証や人証については異議なしか異議)を聞かなければならないとされています(規190条2項)。
そのため、検察官請求証拠に対しては、被告人・弁護人の意見を聴かなければならず、弁護人請求証拠に対しては、検察官の意見を聴かなければならないことになります。
この証拠意見に際しては、証拠能力のないもの、事件との関連性がないもの、証拠調べの必要性がないものについては、不同意との意見を表明し、証拠採用の却下を求めることになります。
㋓証拠調べの実施
証拠として採用することが決定したものについては、証拠調べが実施されます。
書証(書面の記載内容が証拠となるもの)については、記載内容の朗読によって行われます。
この際、記載内容を全て読み上げるのではなく、要旨の告知のみ行うことも多いです。
物証(存在や状態そのものが証拠となるもの)については、公判廷において展示する方法により行われます。
なお、契約書のように、その内容が証拠となるとともに、その存在そのものも証拠となる書面が存在します。これらの書面を「証拠物たる書面」といい、朗読と展示の双方が行われることとなります。
人証(人の供述が証拠となるもの)については、証人尋問によって行われます。
㋔弁護人立証
検察官立証が終了すると、続いて弁護人立証が行われます。
弁護人立証も、検察官立証と同様の手順で行われます。

③被告人質問

証拠調べが終わると、被告人質問が行われるという順番が多いです。
ただし、被告人質問は、裁判長が、いつでも必要と考える時にできる旨規定されていますので(311条2項、3項)、必ず証拠調べの後に行う義務があるというわけではありません。
被告人の供述は、有利・不利を問わず証拠となります。
実務では、弁護人、検察官、裁判所という順番で、被告人質問を実施することが一般的です。

④弁論

弁論手続きでは、検察官としての事実および法律の適用について意見を述べ(これを論告といいます。)、有罪の意見を述べる場合には、刑の種類と量についても意見を述べます(これを求刑といいます)。
その後に弁護側の意見を述べます(これを最終弁論といいます)。最後に被告人本人が自分の意見を述べる機会が設けられます。
その後判決という流れになっています。多くの場合、2週間程度後に判決が言い渡されます。

6.さいごに

逮捕されてから判決まで一連の経過において、被告人には、身体拘束をされている中で、常に最終的な結論を想定しながら自己の主張を立証するための準備を進めることが求められます。
そのため、早期に弁護士に相談し、不起訴の可能性を検討したり、裁判における執行猶予獲得のための準備を始めることが非常に重要となりますので、刑事事件に詳しい弁護士にご相談ください。

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